東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)47号 判決
(争いのない事実)
一 特許庁における本件手続の経緯および本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 当裁判所は、次に説示する理由により、本件審決は違法であり、取り消されるべきものである、と判断する。
1 原告は、まず、本件審決は本願発明の要旨の認定を誤つたものである旨主張するが、原告の右主張は理由があるものということができる。すなわち、本件審決が本願発明の要旨を第一次訂正明細書の特許請求の範囲の項の記載と同一と認めたことは前記当事者間に争いのない事実により明らかであり、また、本件抗告審判手続における拒絶理由通知書において、原告提出にかかる第二次訂正明細書には、本願発明の当初の明細書に記載された事項に含まれない、軸受、ブツシユ、カバー等の隅角の「弧状面」が凹面を呈する実施例(第三図)が附加され、これを含むように、その特許請求の範囲が訂正されたことを理由に要旨を変更するものとされたこと、ならびに第二次訂正明細書に軸受、ブツシユ、カバー等の隅角の弧状面が凹面をなす実施例として第三図が追加されたことは当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一号証(本願発明の当初の明細書および図面)によると、その「発明の詳細な説明」の項には、本願発明が各種車軸、ローラーその他各種用途の車轂筒内または軸上においてその筒内または軸上に嵌挿された軸受、ブツシユ、カバー、止金具等の脱出を簡単確実に防止することを目的とする組合せ装置にかかり、この目的を達するため、円筒内または軸上にスプリング溝を穿設し、該スプリング溝に嵌挿取外しの自由な切欠き環状スプリングをスプリング溝より適当な高さに露出させて嵌挿し、これに対応する軸受、ブツシユ、カバー等の外周外側または内周外側の隅角部を適度の円弧または傾斜その他適当の面となし、これらを組み合わせる構成としたから、脱出しようとする軸受、ブツシユ、カバー等の外周外側または内周外側の隅角の弧状面または傾斜面はその脱出しようとする力に応じてスプリングに乗り上ろうとする力となり、その分力はスプリングの脱出を防ぎ、その結果、軸受、ブツシユ、カバー等の脱出を完全に防止しうる旨記載され、「特許請求の範囲」の項にもその構成について同様の記載があることが認められ、叙上の記載事実(特に脱出防止についての技術思想)に、円弧面につきこれを特に凸弧面に限定する趣旨の文言の記載がないことを考え合わすと、本願発明の当初の明細書にいう、軸受、ブツシユ、カバー等の隅角の弧状面とは、凸弧面のみならず凹弧面をも、含むものであり、これを特に被告主張のように凸弧面のみに限定する趣旨に解することはできない。もつとも、前掲甲第一号証には、実施例として凸弧面のものが示され、凹弧面の例が示されていないが、前挙示の証拠に照らし、右の事実は前段認定を左右するに足りない。してみれば、原告が第二次訂正明細書において、軸受、ブツシユ、カバー等の隅角部が凹弧面を形成する第三図を追加し、これを含むように特許請求の範囲を訂正したからといつて、右は当初の明細書に含まれた事項であるから、このことを理由に第二次訂正明細書による補正を容れず、これを要旨変更としたことは違法といわざるをえない。被告は、当初の明細書添附の図面に記載されていない実施例を追加することは認め難い趣旨の主張をするけれども、出願公告の決定前においては、当初の明細書の記載中に客観的に含まれる事項である限り、新たな実施例の追加が許されるべきことは旧特許法施行規則第一一条および第一二条の規定に照らし明白であるから、右被告の主張は採用の限りでない。したがつて、本件審決は、本願発明の要旨の認定を誤つたものというべきである。
2 のみならず、本願発明は、以下に説示するとおり、第一引用例および第二引用例から容易に発明しうる程度のものと断ずることもできない。すなわち、
成立に争いのない甲第二号証(第一次訂正明細書)によれば、各種車軸、ローラー等の車轂筒内または軸上に嵌挿される軸受、ブツシユ、カバー等の脱出を防止するため、従来はねじ、ピン等を使用していたが、これは運転の動揺等により軸受、ブツシユ、カバー等の完全な脱出防止をなしえない欠陥があつたところ、本願発明はこの種欠点を完全に克服し、各種用途の車轂筒内または軸上に嵌挿された軸受、ブツシユ、カバー等の簡単正確な脱出防止装置をうることを技術的課題とし、この課題解決のため、前記認定の組立構成を採用したものであり、その使用対象からみてきわめて大きな荷重が加わる場合を予定し、この場合においても十分にその目的を達することを企図したものであることを認めるに十分である。なお、本願発明の要旨は、前説示の理由により第二次訂正明細書に基づき認定すべきところ成立に争いのない甲第六号証(第二次訂正明細書)によると、本願発明の要旨は、原告主張のとおりと認められ、その「発明の詳細な説明」の項には、本願発明の技術的構成につき、被嵌合物Aの周面に形成した輪溝Bに相対する嵌合物Cの稜縁にそれらの中心と同心の一次または二次の錐面Dを特設し、輪溝Bに押し込んだ弾性切欠リングEに上記錐面Dが乗りかかるような状態に圧接させ、嵌合物Cが脱出せんとする力、すなわち、両者の切点における軸線方向の圧力が分力となつて上記切点における錐面Dを通じてリングEを輪溝Bの深部へ抑圧させることを特徴とする軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊締装置であるとし、このような構成とすることにより、嵌合物Cに軸線方向の圧力が加わるとき、その圧力が大であればあるほど、弾性切欠リングEを輪溝Bの深部へ抑圧する分力は軸線方向の圧力に比例して大となるとともにその圧力は錐面の作用により嵌合物CによるリングE剪断の作用を生じないため、嵌合物Cまたは被嵌合物Aが破壊するまでの圧力がリングEに加わつても、なお、リングEが輪溝Bより脱出することなく、完全な脱出防止緊締の目的を達しうる旨記載されていることが認められ、これによると、表現は異なるが、発明の構成、目的、効果は第一次訂正明細書と同一趣旨であることが明らかである。
しかして、本件審決は、本願発明のスプリング凹溝に嵌挿された切欠きスプリングに対応する軸受、ブツシユ、カバー等の外周外側または内周外側の隅角部を円弧面または傾斜面に形成し、軸受、ブツシユ、カバー等を脱出させる力が働いたときに、リングを凹溝内に押しつける作用を生ぜしめ、軸受、ブツシユ、カバー等の脱出を防止せしめる技術思想は、第二引用例に開示されているとするのであるが、成立に争いのない甲第一一号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、製作費が安く、蓋の開閉が容易で、かつ、その製造がきわめて簡単な金属薄板製容器に関する発明であり、容器の上縁を内側に曲げられたほぼ半円形のフランジ状とし、蓋の上周縁はフランジとほぼ同じ曲率の内側に曲げられた断面曲線または直線とし、この半円形のフランジ状縁と蓋により作られる凹みの形状のみで、この凹みに嵌合されるリングを保持する構成としたものであるから、リングは容器本体と蓋から受ける弾力に抗して保持部分へ押し込まれ、フランジの半円の凹みへはめこまれ、たとえフランジの半円形の部分が誤つて変形したときでも鎚でたたけばリングは容易に元の位置におさまり、リングを取りはずすまで蓋が安全に閉じられうるものであることを認めることができ、これによると、蓋体の脱出防止は本願発明と力学的原理を同一にするものとみられるけれども、上記認定の事実からも明らかなように、第二引用例は、金属薄板製容器の蓋に関するものであり、その蓋をはずす方向に作用する力がそれほど大きいものでなく、本願発明が解決の狙いとしたような過大な荷重力が加わる場合のあることを予測して、その脱出防止を企図したものでないことは明らかであり、本願発明とは利用される技術分野を全く異にするものといわざるをえない。叙上認定の事実に徴すると、第二引用例が本願発明と同一の技術思想を開示しているということはもとより、これを示唆するものと解することも困難であり、前記認定の本願発明の奏する特有の作用効果を合わせ考えると、本願発明が第一引用例および第二引用例から容易に発明しうる程度のものとは、とうてい認めることはできない。なお、被告は、第二引用例は公知例の一例として挙げたにすぎないとし、その他の公知例として、昭和一一年実用新案出願公告第一四、〇五七号公報(乙第六号証)を挙示するが、同号証(その成立に争いがない。)によると、右考案は、自転車ハブの構造に関するもので、そこに示された針金輪は、本願発明のリングと異なり、単にフエルト環の弾力に耐えてフエルト環を所定の位置に係止することを目的とするから、針金輪に加わる力はさほど大きくないことは明らかであるし、ハブ球押の円桿状部に針金輪、フエルト環および押座鈑が嵌挿組み合わされたままで、ハブの解体が可能な構造であるから、構造上からもフエルト環の弾力以外の外力(振動等)が針金輪に加わつたとしてもきわめて軽微であることが推認でき、したがつて、右考案は、第二引用例について説示したところと同様、本願発明が軸受、ブツシユ、カバー等がきわめて大きな荷重にも耐えて脱出しないようにすることを目的課題としたものとは異なるものであり、これをもつて前段認定を覆す資料とすることはできない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、本件審決は、進んで爾余の点について判断を用いるまでもなく、失当なものというべく、したがつて、前記の点に判断を誤つた違法があるとして、その取消しを求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
〔編註〕 本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和二九年一月二七日、名称を「軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊定装置」(後に昭和二九年一二月一日付訂正書により、発明の名称を「軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊締装置」と訂正)とする発明につき特許出願をしたところ、同年九月二七日拒絶査定を受けたので、これを不服として、同年一〇月二五日抗告審判の請求をし、昭和二九年抗告審判第二、〇七五号事件として審理されたが、昭和三三年八月二八日、「本件抗告審判の請求は、成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年九月一二日原告に送達された。
二 本願発明の要旨
被嵌合物の周面に形成した輪溝に相対する嵌合物の稜縁にそれらの中心と同心の一次または二次の錐面を特設し、輪溝に押し込んだ弾性切欠リングに上記錐面が乗りかかるような状態に圧接し、嵌合物が脱出せんとする力、すなわち両者の切点における軸線方向の圧力が上記切点における錐面を通じ分力となつてリングを輪溝の深部へ抑圧することにより嵌合物を脱出せしめないようにしたことを特徴とする軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊締装置。(昭和二九年一二月一日付再訂正明細書の「特許請求の範囲」の項の記載と同じ。)
三 本件審決の理由の要点
本願発明の要旨は、昭和二九年二月一九日付訂正明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりの「軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊定装置」にあるものと認められるところ、本願特許出願前国内に頒布された刊行物である昭和一二年実用新案出願公告第九、八一九号公報(以下「第一引用例」という。)には、緊定用円環が緊定環から脱出しないように緊定環に半円凹溝を設け、その凹溝に弾性切欠き押えリングを嵌合することが記載されており、また、米国特許第一、三〇三、一七五号明細書(以下「第二引用例」という。)には、円筒形金属製容器の口部端縁を半円溝状フランジに形成し、口部に嵌合する蓋体の上周縁を円弧面あるいは錐面に形成し、半円溝状フランジ内に弾性切欠きリングを嵌合し、リングと蓋体の上周縁とを当てて蓋体の脱出を防止することが記載され、かつ、その図面によると、もし蓋体をはずそうとする力が蓋体に作用した場合、蓋体の上周縁がリングを凹溝内に押しつけるような作用が当然起こることを判断することができ、したがつて、本願発明は、第一引用例および第二引用例に示された上記の公知事項から格別の発明思想を要しないで考えうるものであり、旧特許法(大正一〇年法律第九六号をいう。以下同じ。)第一条の要件を具備しないものである。
四 本件審決を取り消すべき事由
本件審決は、次に述べる点において違法であり、取り消されるべきである。
1 本件審判の審理終結通知は、審決があつた後の昭和三三年九月八日、その通知日付を審決前の同年八月二五日に遡らせて発せられたものであるから、本件審決は旧特許法第一〇五条第三項および第一一〇条の規定に反してされたもので違法というべきである。もつとも、右の審理終結通知書には、さきに発せられた昭和三三年八月二五日付審理終結通知書中の抗告審判番号の誤記を訂正する旨附記されているが、審理終結通知書には、当事者の記載および事件の表示もないから、事件番号を誤記した場合は、全く他の抗告審判事件の審理終結通知とみるほかはない。
2 本件審決は、原告の提出にかかる昭和二九年一二月一日付再訂正明細書および図面(以下「第二次訂正明細書」という。)を無視し、同年二月一九日付訂正明細書および図面(以下「第一次訂正明細書」という。)に基づいて本願発明の要旨を認定したものであり、審理の対象を誤つた違法がある。なお、抗告審判における拒絶理由通知書には、第一次訂正明細書は出願当初の明細書および図面と内容の同一性を失わないが、第二次訂正明細書は出願当初のものに記載されていない事項を包含しており、発明の要旨を変更したものであるから、採用できない旨説示しているが、第二次訂正明細書は、本願出願当初の明細書の特許請求の範囲中の「車轂筒又は軸」および「軸受又はブツシユ、カバー、止金具等」の例示的記載を、それぞれ「被嵌合物」および「嵌合物」として総括的に表示したほか、「弧状面或は傾斜面其他適当の面に形成し」とあるを「一次又は二次の錐面を特設し」と簡潔に改め、「適当の面」の如き漠然たる表現を排し、また、二項に記載してある特許請求の範囲を一項に取り纏めて記載して明確ならしめる等全文を書き改めて発明の要旨を第二項掲記のとおり明白ならしめたものにすぎず、したがつて、第二次訂正明細書は、当初の特許出願の明細書に記載した事項の範囲内における特許請求の範囲の訂正である。また、第二次訂正明細書で第三図を加えたといつても、それは出願当初の明細書の特許請求の範囲における「弧状面」の一例(「弧状面」とは、一般に凸凹両種の弧状面を包含する。)であるから、明細書に記載された事項の範囲に包含される実施例の一を附加したものにすぎず、何ら要旨の変更に当たらないというべきである。仮に、第三図の実施例の附加が不適当であるとすれば、それのみを削除するよう訂正の指示をすべきであり、全面的に第二次訂正明細書を要旨変更としたのは、旧特許法施行規則(「大正一〇年農商務省令第三三号」をいう。以下同じ。)第一二条に違反したものである。
3 本願発明は、第一次訂正明細書および第二次訂正明細書のいずれに従つて判断した場合においても、各引用例とは、次のとおり相違し、本件審決はこの点の判断を誤つたものである。
(一) 第一引用例には、本願発明における分力の作用によりリングを輪溝の深部へ抑圧し、嵌合物の脱出を強力に阻止するという技術思想についての記載が全くなく、両者は本質的にその構成および作用効果を異にするものであり、第一引用例は本願発明と何らの関係を有するものではないから、本件審決がこれを引用したのは誤りである。すなわち、第一引用例は、原告の考案にかかる車軸緊定装置であるが、これは車軸(1)の凹溝(2)に一組の半円形緊定環(7)、(7)を突き合せ状に嵌合し、その外周に円環(8)を嵌合し、さらに半円形緊定環(7)、(7)の外周に形成した承溝(6)に弾性押えリング(5)を嵌合し、このリング(5)により円環(8)の脱落を阻止するようにした車軸緊定装置であるから、車軸(1)とボールベアリングaとを確保するのは、緊定環(7)、(7)の組合せを保持する円環(8)で、円環(8)の脱落を防ぐのが弾性切欠きリング(5)であり、円環(8)には全く軸方向の荷重が加わることがなく、リング(5)は車輪、車軸の振動による円環(8)のすべり出しを防げば十分であり、したがつて、リング(5)は単なるすべり止めにすぎず、特に荷重の負担という点については何らの考慮もされていない。これに対し、本願発明においては、嵌合物の稜縁に一次または二次の錐面を形成し、これを輪溝に嵌合した弾性切欠リング上に乗りかからせることにより、リングと錐面との接点における横推力の分力作用により、リングを横推力に比例して輪溝の深部へ圧迫させ、これにより嵌合物の脱出を強力に阻止しうる構成としたものであり、この構成によるときは輪溝が半円形より浅い場合でも、リングが輪溝から押し出されるおそれはなく、また、僅か一個の細いリングをもつて装置の破壊点である十数屯ないし数十屯に及ぶ荷重にも耐えて、嵌合物の脱出を完全に防止しうる作用効果を奏しうるものである。
(二) 本件審決は、第二引用例の構成および作用効果の判断を誤つたものである。すなわち、第二引用例は、ドラム罐のような金属板製容器の蓋を密閉する構造に関するものであり、本願発明の「軸受、ブツシユ、カバー等の脱出防止緊締装置」とは技術的分野を異にするものであるばかりか、その構造は、薄い金属板製円筒形胴体の上縁に保持リングの承溝となるほぼ半円またはこれより浅い凹溝をフランジ状に一体に形成し、この胴体に嵌合する薄い金属板製の蓋の上周縁には、保持リングと係合する傾斜形または彎曲形の縁を設け、胴体に蓋を嵌入することによつて、この縁と前記フランジ状部分の凹溝とで形成される入口の狭い承溝に、その入口の巾よりも大きい太さの保持リングをフランジ部分および蓋体の弾力に抗して圧入することによつて、蓋の下端を胴体に形成したビルジまたは座上に設けたガスケツトに圧着させて蓋を密に閉塞させるものであり、この場合、容器の口と蓋の上縁は、保持リングをその縁に沿つて一八〇度以上包むようになつており、それによりすべての部分が密閉に対し共同作用をするように構成されているから、保持リングは一個の部品である必要はなく、また、弾性を必要としなくても承溝部分の弾性で挾持され離脱することがなく、リングは胴体の上縁と蓋の上縁により形成される承溝内に介在し、あたかも、楔を打ち込むことと同様の作用を呈するが、蓋の脱出を防止するという点については特別の構成を有しない。
このことは、第二引用例が容器としての性質上、蓋を胴内に密嵌し、内容物が漏洩しないように封塞する必要があるが、反対に容器内から保持リングを剪断するような大きな圧力が加わることはありえないことによるのである。これに対し、本願発明は、前記のとおり、嵌合物を圧入するというものでなく、所定の位置に嵌められた嵌合物が過大な力で押し出されようとする場合、これを強力に阻止することを目的としたものであり、両者は、その目的、構成および作用効果において全く異なる。このことは、本願発明と同趣旨の発明である米国特許第二、六六二、六六三号が米国において特許された事実に徴しても明らかである。
(三) 本願発明は、前記のとおり、顕著な作用効果を奏するものであるから、特許要件を具備するものというべきである。すなわち、仮に、本願発明の要旨の部分部分が本件審決認定のとおり公知であるとしても、本件審決は、本願発明がこれら公知事実の総合組合せにより、各引用例に比し僅か一個の着脱容易な弾性切欠きリングをもつて重荷重に耐えうるという飛躍的に著大な作用効果を奏する点を看過し、結論を誤つたものであり、違法というべきである。